テキサス州サンアントニオの古そうな建築巡り!
2019年7月1日サンアントニオにはアラモよりも新しく、現代建築よりは「ちょっと古そうにみえる建築」が多くあります。
でも、面白いものがあるよ!と言われても、それを発見する地図がないと何とも難しい…という訳で、この記事ではミドリムシが個人的な趣味全開でお手伝いさせていただきます。
ちなみに、これらの建物は観光名所化されているわけではなく、現在もオフィスや裁判所など様々な用途で使用されている現役の建物です。
見学する際は、通常の活動の妨げにならないように注意し、外観の観察をメインに行ってください。もし中に入って見学したい場合は事前に建物の管理を行っている団体などに事前に問い合わせるなどし、ご自身の責任の範囲内で行ってください。
また今回建物の年代等を調べるのに助けてもらった本はこちら!サンアントニオ市内の街歩きがちょっと楽しくなる本なのでおすすめです。ていうかブログ読まんでもこれ観てるだけで基本情報は書かれてるので、ここでは私の主観を真面目に観察してる雰囲気にくるんでお届けです。
Contents
今回紹介するサンアントニオの建築の一覧とアクセス
- オールド・ナショナル・バンク・ビルディング(Old National Bank Building旧国立銀行)
- クリフォード・ビルディング(Clifford building), 1891
- スティーブンズ・ビルディング(Stevens Building)1891 & スタアケ・ブラザーズ・ビルディング(Staacke Bro’s Building, 写真左)
- ベクサー・カウンティ・コートハウス(Bexar County Courthous, ベクター群裁判所), 1896
- 旧メディカル・アート・ビルディング/現エミリー・モーガン・ホテル, 1926
- 旧スミス・ヤング・タワー(Smith-Young Tower)/ 現タワー・ライフ・ビルディング(Tower Life Building) (1929)
★マークをタップすると住所が出るよ~
サンアントニオの建築①半円形がポイントの建築
ロマネスク・リヴァイバル様式またはネオ=ロマネスク様式とは
ロマネスクという主に11世紀頃から12世紀初頭の中世ヨーロッパの建築・芸術の時代様式に着想を得た近代の建築様式。古い時代の様式を新しい時代に復興させている様式を総じて「~リヴァイバル」「ネオ~」または「復興様式」と呼ぶ。ロマネスク・リヴァイバル様式の場合、19世紀後半から姿を現す建築様式とされる。
一方、ドイツ系の人々によってより早い段階で、ロマネスク・リヴァイバル様式と似た「半円様式」というものが発明されていた。この半円様式はドイツの国民・国家などナショナリティにふさわしい建築は何かという問いと深く関連する※1。
アメリカのロマネスク・リヴァイバル様式とリチャードソン様式
ウィキペディアによると、アメリカでは大学の建物などにロマネスク・リヴァイバル様式に該当するものが多いらしいです。
ヘンリー・ホブソン・リチャードソンという建築家がとくに有名で、彼の「リチャードソン様式」と呼ばれる独自のロマネスク・リヴァイバル様式は大流行した。
リチャードソンは1860年にパリの美術学校(エコール・デ・ボザール)で学んでおり、幸か不幸かアカデミックな古典建築よりも、当時流行していたリヴァイバル様式に染まってしまったようだ。19世紀後半のフランスとえば、中世建築の保存修復の勢いがマシマシになっていた時代でもある。リチャードソンは特に南フランスの中世建築に影響を受けたようで、フランスのオーヴェルニュ地方の建築について言及している※2。
リチャードソン様式は死後大々的に雑誌に取り上げられるなどして、爆発的に流行したらしい。サンアントニオで活躍した建築家Gordon(下で何度も出てくる!)も、リチャードソン様式に親しんでいたという。この文脈から語るなら、アメリカにあるロマネスク・リヴァイバル様式の建築は、フランスの中世建築の遠い親戚ともいえるかもしれない。
オールド・ナショナル・バンク・ビルディング(Old National Bank Building旧国立銀行)
建築家はニューヨークの建築家Cyrus L.W.Eidlitz、1886年完成。様式はムーア風のものを採用しています。
アーチが馬蹄形で、なんともアラブな雰囲気。柱頭にも唐草模様のような彫刻が施されていたり、小さな噴水があったり…エキゾチックですねぇ。
完成当初は、地元の新聞San Antonio Daily Expresseで「ムーア風を現代建築に巧みにブレンド」というように称賛されました。19世紀のアメリカではこのようなムーア様式の建物はよく建設されていたようです※
現在は弁護士事務所になっており、検索する際は「Maloney Building」の方がヒットしやすいかも。
この建築が実は一番好きです…。
クリフォード・ビルディング(Clifford building), 1891
建築家James Riely Gordon
みどころ:半円形の強調、リバーウォークから見上げた時の塔のような感じ。
建築家はJames Riely Gordon(1863-1937)という地元の建築家で、テキサスの黄金期(1883-1898)に活躍しています。
リバーウォーク沿いの台形の土地に建つ。台形の4つの角のうち1つが丸くなっており、円形平面の塔が建物の躯体に付随するように見える。リバーウォークの遊歩道から見上げると、まるで灯台や物見の塔のような様子。3階には半円形アーチの窓が連なり、アーチボルトで半円形が強調されている。
部分が19世紀末の煉瓦造建築の良い例らしい。
※この建築は「リバイバル様式」として分類されているわけではありませんが、裁判所(ロマネスク・リバイバル)を作った人物と同じなので記載しておきます。
スティーブンズ・ビルディング(Stevens Building, 写真右)1891 & スタアケ・ブラザーズ・ビルディング(Staacke Bro’s Building, 写真左)
隣り合う2つの建物は、どちらもJames Riely Gordonが建築に関わっています。
最初にこの建物を見た時、左右ですごく似ているのでわざと似た感じに建てたのか気になっていたのですが、まさか同じ人が関わってたとは…。
まず右の白っぽい建物が、1891年に建てられたスティーブンズビルディング。写真が悪くてごめんね!!!
Gordonと、D.E.Laubによって建てられ、様式はロマネスク・リヴァイバル様式だと言われています。
とはいえ、ミドリムシ的には何となくロマネスク感は薄いように見えます。確かに、ロマネスクと言えば、このビルの窓や入口に採用されているような半円形のアーチがキーワードではありますが、3階中央のテラスっぽい部分とか、2階の半円形に突出した出窓とか、不思議な感じ。
このなんとも言わない違和感は、上記の本では「折衷的な」という語でまとめられていました。うまいこと言う。
次に緑と赤が印象的な左側の建物。これもGordonの作品で、1894年に建てられました。一番上の破風のような部分に「STAACKE BRO’S」とあります。
この建物ではルネサンス・リヴァイヴァル様式を採用しているそうです。窓の仕切り枠など細部は緑色で、赤い建材とのコントラストが綺麗です。
ところで、最初のスティーブンズ・ビルディング(白っぽい建物)がロマネスク・リヴァイバル様式と言われ、その後のスタアケ・ブラザーズ・ビルディング(赤と緑の建物)はルネサンス・リヴァイバル様式と判断されているのですが、これは何を基準に様式を判断しているんでしょうか。
2つとも正面の立面の分割は結構似てるように見えるし、両方とも半円形を使っているのに、なんで様式名が違うんでしょう。スタアケの方は円柱をファサードに使っているのが言われてみればルネサンスっぽい?
ベクサー・カウンティ・コートハウス(Bexar County Courthous, ベクター群裁判所), 1896
建築家はJames Riely Gordon(上3つと同じ建築家)。1896年完成。このころGordonさん大活躍。
みどころ:教会堂のファサードっぽく見える正面、赤い建材
建物の様式はネオ=ロマネスク、またはロマネスク・リヴァイヴァルと呼ばれる復興様式。建物の赤い色のインパクトが強く、サンアントニオの青い空とのコントラストが鮮やかです。
特に正面がロマネスクっぽく、半円形アーチの開口部が連なっていたり、小円柱で支えられていたりします。塔の4つの半円形の開口部分など、「こういうのヨーロッパで見たことあるわ~」という感じ。
遠目からみると、ほんと教会堂のファサードみたいに見えます。
サンアントニオの建築:ゴシック様式っぽい建築
ゴシック・リヴァイバルとは?
「何か」と問うて、簡潔に理解できるものでもない気がするのですが、っていうかわからないのですが、ちょろっと調べたことをメモしておきます。
ゴシック・リヴァイバルまたはネオ・ゴシックと呼ばれる建築様式は、ロマネスクやルネサンスの復興建築のように、ゴシック建築という過去の時代様式を、近代に復活させた様式です。
始まったのは、ゴシック小説の世界な18世紀後半のイギリスで、さらにフランスなどでも隆盛を見せます。
その後アメリカなどに伝播し、アメリカで最初に建てられたゴシック・リヴァイバルはTrinity Church on the Greenで19世紀初頭のようです※4。
割と早い時期に北米大陸に建てられたゴシック・リヴァイバルですが、ここサンアントニオには19世紀前半の遺構が見当たりません。そもそもアラモの戦いとか色々あって残っていない可能性も大きいですし、そもそも建てられていないのかもしれないですし、私が探せてないだけかもしれません(つまりわからない)。
詳しくはWikipedia読んでみて~>>>ゴシック・リヴァイバル建築
旧メディカル・アート・ビルディング/現エミリー・モーガン・ホテル, 1926
建築家はRalph. H. Cameron。1926年建設。
みどころ:誰もいない天蓋と台、それを支える穏やかな顔の王様(?)。入口上部の盾の文様。
一見すると、装飾はとげとげしておりゴシックっぽくみえる。上昇する線にはこぶし花がついているし、窓枠のアーチも中央で炎のように上昇している。薄く突出した控え壁が各階層を貫くことで、全体の印象も上昇感がある。
しかし窓のアーチはそれ自体が上昇する尖頭アーチではない。また天蓋と台のような装飾が見えるが、ここには中世のゴシック様式にあったであろう聖人の彫像は不在である。この天蓋を支える人頭は、次に述べるタワー・ライフ・ビルディングの人頭とは異なり、穏やかな顔をしている。
入口に目を移すと、上にある窓の下に十字架が施された盾型の彫刻が見える。穏やかな顔の人頭や、十字架の盾などはこの建物が以前は病院だったことと関係があるのだろうか。
旧スミス・ヤング・タワー(Smith-Young Tower)/ 現タワー・ライフ・ビルディング(Tower Life Building), 1929
建築事務所はAyrey&Ayrey。1929年建設。
みどころ:持送りのおじさんの顔と、扁平アーチ(扇形アーチ?)と交差リブの不思議な感じ。
外観装飾は2階の窓枠に施されています。この部分の装飾はゴシック様式っぽいけど、炎のようなとんがり具合なのでフランボワイヤンと言いたい気持ちもあったり…。
装飾の下の方は持送りで支えられています。持送りにはそれぞれ彫刻が施されています。つけ柱の下の持送りはガーゴイルは怪獣ではなく、苦悩したり笑ったりしている人頭(おじさん)。そのほかは花の彫刻のように見えます。
塔の平面図は八角形らしい。どこが八角形かというと、下層にあたる6階ではなく、その上に乗るタワーの部分。確かに四角形ではない。不規則な八角形ですね。
さらに、玄関の上部にはトンネルっぽい天井があり、さらに交差したリブのようなものがある。ヴォールトのアーチが扁平っぽいのに、交差リブがあるので不思議感がある。
あと正面入口には現在のビルの名前が掲げられている。金ピカな印象。
おわりーサンアントニオ含めたアメリカの近代建築について知りたい
サンアントニオの建築巡り、いかがでしたでしょうか。
今回私は初めて建物を見て描写する真似事をしてみたのですが、各部分の名称をしっかり把握してないととても難しかったです。読み難い箇所も多々あったかと思います。
実はもっと色々な建築があるのですよ。「メソ・アメリカ・リヴァイバル」とかね…もうここまでくると私の知らない世界が広がっている…。
あと、今回調べながら思ったんですけど、もうちょっとサンアントニオの建築の情報を、建築の歴史の流れと関連付けながら語れたら楽しそうです。参考にした本はサンアントニオの建築についてのガイドブックだったので、建築がそれぞれ独立して語られてたんですよね。大きな流れとのつながりも知りたい。
最後に、建物の装飾や観察に基づく感想は管理人が行っています。建築家や建築事務所、建設年代、かつての建物の用途などの基礎情報は下記の書籍やURLを参考にしています。
参考文献・URL
※1, https://en.wikipedia.org/wiki/Richardsonian_Romanesque
※2 Chris Meister, James Reily Gordon:his courthouse and other architecture, 2011, p.108
※3, lbid., p.34
※4 https://en.wikipedia.org/wiki/Gothic_Revival_architecture
建物に関する建設年代, 建築家, 様式名については, AIA San Antonio, San Antinio Architecture: Traditions and Visions, 2013を参照した。